古物を取り扱う以上、盗品が持ち込まれる可能性は否定できません。2024年4月には窃盗された純金茶碗が古物買取店に売却され、その後転売されたことで話題となりました。
明らかに盗品の疑いがあれば、買取を拒否したり警察へ通報したりといった対応がとれます。しかし、盗品が絶対に紛れ込まないようにするのはどれほど注意を尽くしても不可能です。
本記事では、盗品の買取依頼があった際にすべき行動や持ち主への返還義務の有無、買取代金の賠償可否について解説します。
盗品の買取依頼があったらまずは警察へ連絡を
盗品と疑わしい買取依頼があった際は、まずは警察に届け出ましょう。不正品の申告は、古物商の三大義務のひとつです。
(確認等及び申告)
古物営業法第十五条(一部抜粋)
3古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとする場合において、当該古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。(引用:「古物営業法第十五条」)
また、警察から事前に窃盗などの被害品リスト(品触書)を渡されることがあります。品触書は6か月保存しなければならず、記載された品の買取依頼があったときや市場で発見したときは直ちに警察に届け出なければなりません。
(品触れ)
古物営業法第十九条(一部抜粋)
警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長(以下「警察本部長等」という。)は、必要があると認めるときは、古物商又は古物市場主に対して、盗品その他財産に対する罪に当たる行為によつて領得された物(以下「盗品等」という。)の品触れを書面により発することができる。(引用:「古物営業法第十九条」)
このほか、警察官から販売を差し止められる可能性もあります。差止期間中は保管義務が生じ、販売や廃棄はできません。
(差止め)
古物営業法第二十一条
古物商が買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けた古物について、盗品等であると疑うに足りる相当な理由がある場合においては、警察本部長等は、当該古物商に対し三十日以内の期間を定めて、その古物の保管を命ずることができる。(引用:「古物営業法第二十一条」)
これらの義務に違反すると営業停止処分だけでなく、懲役や罰金などの刑事罰を受ける可能性があります。
盗品を買取したときの対処法
買取時に盗品だと知っていたかどうか、注意すればわかったかどうかで対応が変わります。さらに、盗品だと知らなかった場合は、盗難のときからどれくらい期間が経過しているかで異なります。
法律で条件が細かく規定されているため、順番に見ていきましょう。
盗品と知らずに買取した場合
盗品と知らず、または注意しても盗品だとわからなかった場合は、買取品の所有権を適正に取得できます。民法に即時取得という規定があるからです。
(即時取得)
民法第百九十二条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。(引用:「民法第百九十二条」)
たとえば不動産なら、登記簿を確認すれば誰が真の所有者か容易に判断できます。しかし、店舗に持参された買取物が本人のものかどうかを確かめる確実な方法はありません。
即時取得は、動産の所有者を真の権利者と信じて取引した場合、本当は権利者ではなかったとしても適法に所有権を取得できるというものです。取引の安全を図るための重要な規定と言えます。
ただし、盗難のときから2年経過する前に持ち主から請求があれば、返還しなければなりません。持ち主に返すときに商品の買取代金を請求できるかどうかは、誰から買い受けたかによって変わります。
ほかの古物商などから買取した場合
店舗やほかの古物商から買い取った商品が盗品であった場合は、盗難からどれくらいの期間が経過しているかで結論が変わります。表にまとめると次のとおりです。
盗難からの経過期間 | 結論 |
1年以内 | 無償で返還しなければならない |
1年を超えて2年以内 | 返還しなければならないが、買取代金の弁償を請求できる |
2年以上 | 返還義務はない |
盗難から1年以内に持ち主から請求があれば、無償で返さなければいけません。これは古物営業法に定められていて、古物商が買受人のときだけに適用されます。
(盗品及び遺失物の回復)
古物営業法第二十条
古物商が買い受け、又は交換した古物(指図証券、記名式所持人払証券(民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百二十条の十三に規定する記名式所持人払証券をいう。)及び無記名証券であるものを除く。)のうちに盗品又は遺失物があつた場合においては、その古物商が当該盗品又は遺失物を公の市場において又は同種の物を取り扱う営業者から善意で譲り受けた場合においても、被害者又は遺失主は、古物商に対し、これを無償で回復することを求めることができる。ただし、盗難又は遺失の時から一年を経過した後においては、この限りでない。(引用:「古物営業法第二十条」)
盗難から1年を超えて2年以内の場合は、民法の規定により買い取ったときの代金を返還時に請求できます。たとえば、1万円で仕入れた場合は1万円の弁償請求はできますが、利益を上乗せして1万5千円を請求するようなことはできません。
(盗品又は遺失物の回復)
民法第百九十三条
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
民法第百九十四条
占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。(引用:「民法第百九十三条」)
盗難から2年を経過していれば、返還義務も金銭賠償義務も負いません。また、判例によれば、返還請求を受けたときに既に売却・廃棄して商品が手元にない場合は、期間にかかわらず返還義務を負わないとされています。
古物商以外から買取した場合
個人や一般企業などから買い取った場合は、盗難から2年以内に持ち主から請求されれば無償で返す必要があります。「競売や公の市場、同種の物を販売する商人」に該当せず、民法194条の規定が適用されないからです。
盗難から2年が経過していれば、返還義務はありません。
盗品と知ったうえで買取した場合
盗品と知っていたり、不注意で気づかなかったりした場合は、盗難被害者から返還請求があれば無償で返さなければなりません。さらに、商品が既に手元になく返還できないときは金銭賠償を要求される可能性があります。
不注意で気づかなかった場合とは、たとえば次のようなものが考えられます。
- 本人確認義務を怠った
- 売主が挙動不審だった
- 大量の同一商品の売主に出所などを確認しなかった
買取時に当然に行うべき行動を怠ったときだけでなく、不審な点があるのに確認しなかった場合も不注意だったと判断される可能性があります。
買取時の確認を徹底して盗品買取を防止しよう
盗品を買い取ってしまった場合の対応方法について解説してきました。しかし、これはあくまで法律上のルールであり、当事者間の合意で独自にルールを定めてもよいとされています。法律上のルールを主張しても、相手方が従わなければ裁判などに発展する可能性がある点に留意しましょう。
また、本人を名乗る人物から返還請求があったらまずは警察に連絡しましょう。誤って他人に返還してしまうと、本人から賠償請求される可能性があるためです。被害届の提出有無や、被害届で申告されている物品と同一かどうかを確認すれば、リスクを軽減できます。
無用なトラブルを生じさせないためにも、買取前に十分に確認して盗品を買い取らないようにしましょう。
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