古物商の行商は古物営業を営む上で、非常に重要です。申請をしなければ、営業所以外で古物の取引はできません。デメリットはさまざまですが、仕入れ・販売のチャンスが激減し、売上が伸び悩むことが考えられるでしょう。
「営業所やECサイトだけしか営業しないと思っていた」にも関わらず、「やっぱり今よりも売上を上げたい」と考え直す方も一定数います。許可なく行商をしてしまうと古物営業法違反になり、刑罰の対象です。
古物商を営むのであれば、古物商許可時に行商についてよく検討してから申請をおこなうことをおすすめします。本記事では、古物商の行商とは何かを説明し、メリット・申請方法・注意点について触れていきます。
古物商の行商とは
古物商の「行商」とは、営業所以外の場所で古物営業を営むことです。行商の許可がなければ、営業所以外で古物の取引ができません。仮店舗での営業・出張買取・古物市場の利用をするためには、公安委員会に届けを出す必要があります。
ただし、行商の許可があったとしても、営業所・相手方の住所(居所)以外で「古物商以外と古物の取引は禁止」です。登録された営業所以外で古物の買取をおこなうと、盗品などの不正品が防止できなくなります。違反すれば営業制限違反に該当し、1年以下の懲役または50万円以下の罰金、もしくは両方が科せられます。
“第十四条 古物商は、その営業所又は取引の相手方の住所若しくは居所以外の場所において、買い受け、若しくは交換するため、又は売却若しくは交換の委託を受けるため、古物商以外の者から古物を受け取つてはならない。ただし、仮設店舗において古物営業を営む場合において、あらかじめ、その日時及び場所を、その場所を管轄する公安委員会に届け出たときは、この限りでない。2 前項ただし書に規定する公安委員会の管轄区域内に営業所を有しない古物商は、同項ただし書の規定による届出を、その営業所の所在地を管轄する公安委員会を経由して行うことができる。3 古物市場においては、古物商間でなければ古物を売買し、交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けてはならない。(古物営業法第14条)”
行商に該当するケース
行商の具体的な内容は下記です。古物の買取は指定された場所でしかできませんので、注意しましょう。
- 展示即売会やデパート・百貨店などで古物の売却
- 相手方の住所(居所)へ赴いて、古物を買取する(出張買取)
- 古物市場で古物商間での古物の取引
行商に該当しないケース
営業所でおこなう古物の取引は、行商に該当しません。具体的には下記のケースが当てはまります。
- 営業所のみで古物の売買をおこなう
- 営業所に古物を郵送してもらい古物を買取する(宅配買取)
- ECサイトで古物の売買をおこなう
宅配買取やECサイトでしか古物の買取をおこなわない場合には、行商の許可は必要ありません。
行商をするメリット
「ECサイトや宅配買取ができるから、行商の申請は必要ない」と考える方もいるかもしれません。行商には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
販売のチャンスが増える
行商の許可を得れば、全国どこでも古物の販売が可能です。売れ残っている在庫でも、販売のチャンスに繋げられます。品物の需要は、顧客の年齢や地域によって異なります。営業所では売れなかった品物でも、他の地域では売れるかもしれません。
ECサイトでも古物の販売はできますが、中古品だからこそ「実際に現物を確認してから購入したい」と考える人も一定数います。行商を取得してさまざまな販路を確保するほうがいいでしょう。
仕入れの範囲が広くなる
営業所以外での古物の仕入れができることも、行商のメリットです。相手方の住所(居所)で買取する「出張買取」は、行商の許可がないとおこなえません。美術品、骨董品、家具など、容易に運搬できない古物を買取できるようになります。
行商の許可を得る一番のメリットは、古物市場への参加でしょう。古物市場は、行商の許可を得ている古物商だけが利用できる場。全国各地で頻繁に開催され、古物の仕入れも容易です。仕入れルートに悩むことも少なくなるでしょう。さらに、売れ残った品物の売却も可能です。不要な在庫を持つ必要がなくなります。
行商の申請方法・手数料
「行商する・しない」の選択は、どのタイミングでおこなえばいいのでしょうか。また、既に古物商許可を得てしまっている場合には、登録変更の手続きはどうすればいいのでしょうか。ここでは、行商の許可を得る方法や手数料について触れていきます。
古物商申請時に申請する場合
行商の申請は、古物商申請書類の「行商をしようとするものであるかどうかの別」でおこないます。「する・しない」にチェックをするだけで、申請が可能です。
古物商許可を受けるときに19,000円の手数料がかかりますが、「行商をする」を選んでも、別途料金はかかりません、特別な事情がない限りは「する」を選択したほうがいいでしょう。
古物商許可後「行商する」に変更する場合
後から行商を申請するには「変更届出・書換申請書」を提出しなくてはいけません。提出先は、主たる営業所又は古物市場を管轄する警察署(防犯係)です。
変更届の内容は、古物許可申請時と同じ書式です。申請期限は、変更が生じた日から14日以内(登記事項証明書を添付すべき場合は20日)です。変更手数料は別途1,500円かかります。
行商時の注意点
行商の許可を得たからといっても、守らなければいけないルールが多数あります。ここでは、行商時の注意点に触れていきます。
特定商取引法に注意する
特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的としています。古物営業法と密接に関係するため、古物商は特定商取引法について理解を深めておく必要があるでしょう。
古物商が出張買取をおこなうことを、特定商取引法では「訪問購入」といいます。訪問購入にはさまざまなルールが定められています。
事業者の氏名等の明示
出張買取では、勧誘に先立って相手方に次の内容を告げなくてはいけません。
- 事業者の名前
- 依頼された品物を買取する目的で訪問すること
- 査定・買取しようとする品物の種類
「勧誘に先立って」とは、消費者庁の解釈で「基本的に、インターホンで開口一番に告げなければならない」項目とのことです。
不招請勧誘の禁止
経験豊富な事業者の言葉巧みな話術により、消費者は騙されて契約してしまうケースが近年多発しました。消費者保護の観点から「飛び込み勧誘」が禁止されています。加えて、本来の査定依頼の枠を超えた勧誘をしてはいけません。
再勧誘の禁止
出張買取をおこなう際には、勧誘に先立って相手方に出張買取を受ける意思があることを確認しなくてはいけません。買取作業に入る前に確認し、相手方と意見の食い違いがないようにしましょう。
書面交付義務
出張買取の申込みや売買契約が締結した際には、下記の14項目を相手方に確認しなくてはいけません。さらに書類の中で「注意しなくてはいけない項目」については「赤枠の中に赤字で記載」する必要があります。
1.物品の種類
2.物品の購入価格
3.代金の支払時期、方法
4.物品の引渡時期、方法
5.契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項
6.物品の引渡しの拒絶(法第58条の15)に関する事項
7.事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
8.契約の申込み又は締結を担当した者の氏名
9.契約の申込み又は締結の年月日
10.物品名
11.物品の特徴
12.物品又はその附属品に商標、製造者名若しくは販売者名の記載があるとき又は型式があるときは、当該商標、製造者名若しくは販売者名又は型式
13.契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
14.そのほか特約があるときには、その内容(消費者庁「 特定商取引法ガイド 4.書面の交付(法第58条の7、法第58条の8)」)
物品引渡しの拒絶に関する告知
事業者は相手方から買取した品物を売却してしまうケースがほとんどです。クーリング・オフの要望があっても、相手方の元に品物を戻せないトラブルが多く発生しています。事業者はクーリング・オフにより相手方から品物を返却する要望があったとしても、返却ができない場合があることを告げなければなりません。
クーリング・オフについて
買取した品物を第三者に引渡しする際には、買取した相手方に「引き渡したこと」「第三者の氏名・電話番号などの詳細情報」を伝える必要があります。また、第三者に対しては品物が「クーリング・オフされる可能性があること」「クーリング・オフ期間」などを書面で通知しなくてはいけません。
許可証・行商従業者証を携帯する
行商をおこなうには、必ず古物許可証の携帯が義務付けられています。従業員を連れていく場合には、行商従業者証を必ず携帯してください。なお、行商従業者証があれば、従業員は古物商許可を得ていなくても問題ありません。
行商選択に迷ったら「する」を選ぶのがおすすめ
古物商の仕入れや販売の幅を広げるために、行商は必要不可欠といえるでしょう。特に、仕入れの要となる古物市場への参加は、古物商としてもメリットが大きく、積極的に利用したいものです。
行商の申請は古物商許可を得た後でも可能ですが、手間がかかる上、別途料金が発生します。例え、営業所でしか業務をおこなわないとしても、長期的に考えて行商は必要な場合が多いです。これから古物商許可を得る方は、初めから「行商する」を選択することをおすすめします。
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