消費者だけではなく、古物商を営む人もクーリングオフの制度は覚えておかなければなりません。クーリングオフは、簡単に言うと法律で定められた返品に関する制度です。全てのサービスに適用される訳ではなく、特定のサービスにのみ有効です。そこで古物商の場合、クーリングオフはどこまで適用されるのか、その範囲について覚えておきましょう。
クーリングオフ制度の対象
クーリングオフ制度は、消費者問題が深刻になった1972年に消費者の被害を防止するために「特定商取引に関する法律」で制定されたものです。通常は、一度契約が成立してしまえば基本的に解除はできません。しかし、トラブルを生みやすいとされる形態の取引の場合に限り、契約を結んでから一定の期間であれば解除を申し込めます。以下のような例が、クーリングオフ制度の対象です。
- 訪問販売
- 電話勧誘
- 訪問購入
- 特定継続的役務提供
- 業務提供誘引販売取引
- 連鎖販売取引
キャンセル可能な期間は、連載販売取引と業務提供誘引販売取引が20日間、その他が8日間です。
■古物商におけるクーリングオフの適用範囲
古物商の取引の中には、クーリングオフ制度の適用となるケースもあります。全ての取引が対象となる訳ではありません。「対象ではないと思って対応していた」などのケースでトラブルになることもあるため、しっかりと範囲を確認しておくべきです。
中古品を消費者の自宅で販売する場合の適用範囲
車などに商品を詰め込み、消費者の自宅を訪ねて物を売る……というセールスの仕方が訪問販売です。一般的に訪問販売は、クーリングオフの対象となる取引です。
骨董品などを扱う人の中には、コレクターの家に直接伺い商品を見てもらう人もいるでしょう。「突然、古物業者が自宅を訪ねてきて商品を購入した」という場合は、100%契約を解除可能と考えてよいです。一方で、自らの購入(契約)する意思があって業者を呼んだ場合は、クーリングオフの対象から外れます。
訪問によるセールスで立場が弱くなる消費者を保護するという観点から、訪問販売は制度の対象ですが、自ら契約する意思で呼んだとなると、それは訪問販売とは言いません。また、契約者が業者にあたる場合に事業者取引のため対象外です。
第二十六条 前三節の規定は、次の販売又は役務の提供で訪問販売、通信販売又は電話勧誘販売に該当するものについては、適用しない。
一 売買契約又は役務提供契約で、第二条第一項から第三項までに規定する売買契約若しくは役務提供契約の申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの又は購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る販売又は役務の提供(「特定商取引に関する法律」第26条1号)
「消費者自らの意思」という観点からきになるのは、アポイントメントによる訪問販売です。実はこのケースでも、クーリングオフが適用されます。「業者から自宅を訪ねても良いか?」という電話があったとして、応じる=購入の意思があるとはならないからです。あくまでも確認できているのは、勧誘を受ける意思です。
第三条の二 販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その相手方に対し、勧誘を受ける意思があることを確認するよう努めなければならない。2 販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。(「特定商取引に関する法律」第3条2号)
訪問や出張による中古品を買取する場合の適用範囲
古物業者では、中古品の販売だけでなく買取りも行っているケースが大半です。その方法の中には、出張買取・訪問買取もあります。
業者が電話勧誘によりアポを取ったお宅へ赴き、見積もり~買取をするケースも電話などの勧誘やアポなしの飛び込み訪問による買取りもクーリングオフの対象となる取引方法です。
しかし、事前査定の場合に話が変わってきます。メールやLINEを使って既に査定をしており、売るものが確定していて、その金額に納得した上で自ら出張買取りを依頼した場合に、「消費者側からのアプローチにより業者が自宅へ出張訪問をした」とみなされ、制度が適用にならないこともあります。
6 第四条から第十条までの規定は、次の訪問販売については、適用しない。一 その住居において売買契約若しくは役務提供契約の申込みをし又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者に対して行う訪問販売(「特定商取引に関する法律」第6条)
店頭購入・買取りをする場合の適用範囲
直接店頭で中古品の売買をする場合は、クーリングオフ適用となる取引には該当しません。店頭での取引は十分に考える時間があり、自らの意思で足を運ぶことから、消費者が不利な立場になることはないでしょう。
宅配買取りをする場合の適用範囲
大量のアイテム、サイズの大きい物は宅配買取りを利用する人も多いです。しかし、不要品を梱包し業者へ送って査定・買取をしてもらう場合、クーリングオフの対象外です。何故なら、店頭での売買と同じで消費者を保護する理由がないためです。
通信販売をする場合の適用範囲
古物商ビジネスでは、ネットショップを展開していたり、ホームページで売買を行ったりするケースも増えています。通信販売は、クーリングオフの対象とはなりません。
“2 この章及び第五十八条の十九において「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう。(「特定商取引に関する法律」第2条2項)”
クーリングオフ対象外のアイテムについて
取引方法自体は、クーリングオフが適用となる買取りであっても品目によっては対象から外れてしまいます。下記の訪問買取りは、制度の適用にはなりません。
- バイクや自転車などの二輪以外の自動車
- 簡単に持ち運びのできない大型家電、家具
- 本
- CD、DVD、ゲームソフト類
- 有価証券
- 3000円未満の取引
5 第九条及び第二十四条の規定は、訪問販売又は電話勧誘販売に該当する販売又は役務の提供が次の場合に該当する場合における当該販売又は役務の提供については、適用しない。
三 第五条第二項又は第十九条第二項に規定する場合において、当該売買契約に係る商品若しくは特定権利の代金又は当該役務提供契約に係る役務の対価の総額が政令で定める金額に満たないとき。(古物営業法第5条3号)
クーリングオフ制度を守らなかった場合
クーリングオフ制度を利用された場合に、速やかに提供契約解除に伴う債務を全て果たさなければなりません。「今回の取引方法は対象外では?」など、不当に遅延させると罰則の対象になります。もちろん、一部でも債務を果たさなかった場合にも、もちろん罰則の対象です。
訪問買取に関わる業務停止を命じされることもあります。定められた期間は、停止させられた業務範囲に関わる業務を新たに開始することもできません。
第八条 主務大臣は、販売業者若しくは役務提供事業者が第三条、第三条の二第二項若しくは第四条から第六条までの規定に違反し若しくは前条第一項各号に掲げる行為をした場合において訪問販売に係る取引の公正及び購入者若しくは役務の提供を受ける者の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同項の規定による指示に従わないときは、その販売業者又は役務提供事業者に対し、二年以内の期間を限り、訪問販売に関する業務の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる。(略)(古物営業法第8条)
消費者を守る法律ですが、事業者に関係がないわけではありません。法律に基づき速やかな契約解除を求められることがあります。「知らなかった」では済まないため、きちんと押さえておきましょう。
▶︎
古物査定士資格取得に関する問い合わせ窓口
(当面の間は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、資格試験をオンライン上で行うこととします)
コメントを残す